東京高等裁判所 昭和56年(ラ)920号 決定 1982年2月01日
抗告人 三木孝治
右代理人弁護士 谷口欣一
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告人は、「原決定を取消す。」との裁判を求め、その理由は別紙抗告の理由記載のとおりである。
よって検討するに、
一 抗告理由一について
原審一件記録によれば、原審裁判所が株式会社マルショウ(旧商号株式会社丸昭)に対して、仮登記担保契約に関する法律第一七条一項による催告をなしていないことは、抗告人主張のとおり認められる。しかし、株式会社マルショウは抗告人主張のように昭和五五年八月二一日、浦和地方裁判所に不動産強制競売申立をなし(浦和地方裁判所昭和五五年(ヌ)第三七号)、同年同月二五日添付決定がなされているので右添付決定により、株式会社マルショウは原審昭和五五年(ケ)第一一〇号事件について配当要求の効力を生じ、前記法条に基く催告をしなかった手続の瑕疵は治癒されたものというべきである。かりに、治癒されなかったとしても、右通知懈怠に基づく不利益は、本来、株式会社マルショウがうけるべきものであって、債務者兼所有者である抗告人の権利に何らの消長を及ぼすものではない。したがって、抗告理由一は理由がない。
二 抗告理由二について
民事執行法附則三条の規定による改正前の民事訴訟法第六五八条第三号所定の競売期日の公告の必要記載要件とされる賃貸借は、抵当権者に対抗しうるものに限られ、抵当権者に対抗できない賃貸借ある場合、その期限、借賃、敷金等を競売期日の公告に掲載することを要しないものと解されている。本件についてこれをみるに、原審一件記録中の賃借人本多商事株式会社作成の上申書によれば、同会社が昭和五五年二月一〇日から期間満五ヵ年の約定で賃借使用中の旨の記載が認められる。そうだとすれば、本件競売申立債権者株式会社協和銀行が本件物件についてなした根抵当権設定登記は、昭和五一年三月二日であることは原審一件記録上明らかであるから、右本多商事株式会社の賃借権は、右抵当権設定登記後になされたものであって、かつ、未登記であるから抵当権者に対抗しえないものである。したがって、抗告理由二は理由がない。
三 その他、本件記録を精査しても、原決定を取消すべき事由を見い出すことはできない。
よって、本件抗告を棄却すべきものとして主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 廣木重喜 裁判官 寺澤光子 原島克己)
<以下省略>